漫画

漫画における、標準的身体能力についての不満。
現代における小説やら漫画やらにおいて、時おり見られることのある超人的能力。
モンキー・D・ルフィは腕を伸ばします。
孫悟空は空を飛び、気功波を撃ちます。
けれど、それらに対して誰もつっこみません。
なぜなら彼らは普通の人間ではないからです。
ルフィはゴムゴムの実を食べて超人になりました。
悟空はサイヤ人という戦闘民族であると同時に、ドラゴンボールなどという不思議パワーの存在する異世界在住です。
何が言いたいかというと、「超人的パワーには、その根拠がほしい」ということです。
ゼットンが一兆度の火の玉を吐けるのも、火の玉を生み出す器官が体内に存在しているからです。
それをそういうものだと納得させるだけの根拠があればいいということです。



昨今の漫画を読んでいて、「普通の高校生(中学生)」という設定であるのに、明らかに超人的な動きをしている作品がちらほらと存在します。
もちろん、そういった超人的な力を発揮するにしても、そこに至るまでの伏線やら設定やらがきちんとあれば、それは納得ができます。
しかし、「いや、それって無理じゃね?」と思わされるような身体能力を、設定のない人間が発揮するという展開を見るたびに、「なんだかなー」というやるせない、冷めた気持ちになる今日この頃です。
まぁ、ギャグ空間というものもありますし、すべての事象が現実の物理法則に即したものである必要もないでしょう。
ただ、たとえばヤンキーのバトル漫画だとか、心理戦が売りのサスペンス漫画だったりするならば、ある程度は人間のもつ「限界」を意識して物語を作るべきなんじゃないかなぁと思います。
なんでもかんでも「リミッター解除!」で片づけようとするのでは、置いてきぼり感がはんぱないです。(昔、そういう小説をたくさん書いてしまったことがあります)
能力的に限られた人間が、人間の持ちうる身体能力と思考能力を限界まで駆使して闘う。そういう展開が最近はお気に入りです。
限界を超えた力を持たせたいのであれば、さっさとファンタジーにしてしまえばいいのに。ロー・ファンタジーというジャンルもあるみたいだし。



ちなみに。
この↓漫画を読んでいて、この↑ようなことを考えたわけだったり。
ニコニコ漫画 吉原雅彦作『ブラック彼女』
http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg188339?track=ct_first
(以下、3話までのネタバレ含む)
1話は良い。2話もまぁ良い。だが3話、テメーはダメだ。
どこの世界に肩から地面に着地して脱臼を直したり、ドライバーを加えて下腿の筋を貫くだけのエネルギーを生み出せたりする女子中学生がいるんだ。
そもそも、女子中学生と成人男性の体格差というものは、よほどのことがない限り覆せるものではありません。
そのため、2話のように武器を使ったり、不意打ちをするという手段は、非常に説得力を生みます。力の差を覆すのは武器であり、知恵だからです。
突き抜けた常識外の身体能力を描くのであれば、「限界突破」以外の説得材料が欲しいところです。これから先に描かれるのかもしれませんけど。


この作品、物語のテンポはとても良いし、絵もすっごく上手です。
ただ、キャラにまったくといっていいほど魅力を感じません。
少なくとも3話まで読んだ時点でカタルシスはまったく感じられないし、主人公を含め登場人物の心の動きに欠片も共感できない。(サイコパスばかりなのである意味当然ですけど)
先発作品である、『未来日記』とはよく比較されるようですが、キャラのもつ魅力という点では大きく差がついているように感じます。
未来日記』のヒロイン我妻由乃が人気になったのは、男なら抱いたことのあるであろう「エロくて可愛い女の子に死ぬほど愛されてみたい!」という願望をキャラが満たしていたからです。「貴方(ユッキー)以外はどうなってもかまわない」というレベルの愛し方でしたし、無条件かつ絶対的な愛の奉仕です。めっちゃ重いですが、そこに魅力を感じた人は少なくないはずです。
『ブラック彼女』の天宮さんは、「テルテル(主人公)をいじめていいのは私だけ」というスタイルのヒロインです。ペンチを使って主人公の歯は抜くわ、墓地の側溝の下に埋めるわ、好き勝手し放題です。
主人公を守る立場をとった由乃とは異なり、天宮さんは傷つける立場をとっているわけです。読者は基本的に主人公の視点を軸に物語を読むことが多いと思うのですが、そうなるとこのキャラに対する感情はどういったものになるでしょう。少なくとも私は不快でした。
ヒロインがラスボスという展開はたまーにありますが、看板となるべきキャラが不快感を買うキャラってのはどうなのかと思います。
今のままだと名作まではいかず、良作止まりといったところでしょうか。あるいは奇作。
とはいえ、好きの反対は無関心。ここまでヘイトを向けてしまっている時点で、実は結構この作品にハマりこんでしまっているのかもしれませんね。



素直に読めなくなったのは歳のせいか。んん。
フィクションはフィクションとして純粋に楽しめたらいいのに、って思います。