雑記

「赤ちゃんってどうやってできるの?」
親戚の子、あるいは近所の子に聞かれて、答えられなかったという経験はありませんか? 僕にはあります。結構昔の話ですけどね。
一番簡単な方法はぶっちゃけてしまうことなのだけど、難しい話は理解できないかもしれないし、なにより大真面目にそれを語るのも恥ずかしい。わかります、気持ちはとてもわかります!
でも、そんなあなたももう安心。はぐらかすわけでもなく嘘を言うわけではない、グッドな答えをご紹介しましょう。
すなわち、「男女の気持ちが通じ合えば自然とできる」という答え方です。綺麗な答え方ですし、なにより嘘ではない。大変効果的な答えであるといえます。
これさえ覚えておけば「コウノトリさんが……(; ̄A ̄)」だとか「おしべとめしべが……(;TAT)」だとか、最終手段である「そ、それは、お父さんかお母さんに聞きなさい(;´ー`)」に頼る必要もなくなるのです。そう、甥っ子や姪っ子の質問に悶えることもなくなるのです。


えー、さて、今日もまた夏を感じるために夕方から出かけてみました。行き先はまた北の山でした。
成果はというと……上々すぎるくらいでした。良くも悪くも。
なんといいますか、人間のもちうる本能的な感覚を感じました。


時刻は午後6時過ぎ、僕はまたアスファルトの坂道を歩いて上っていました。目的は先に述べたように夏と、ついでに猫を感じるためです。相変わらず片手には黄色いタオル。
初めの道中では、とりたてて面白い出来事はありませんでした。せいぜい旧友の家であった建物を見てノスタルジックな気分に浸ってみたりした程度です。
で、しばらーくの間坂道をスタスタと上っていると、不意に左手に開けた場所があったんです。そこには古びた建物がありました。一階にあたる部分が駐車場になっていて、横手には二階に続く階段がくっついていました。某ジョ○フルをイメージするとわかりやすいかもわかりません。まぁ、それよりかはかなり黒ずんだ感じでしたけど。
しかし、僕が気になったのはそんな廃屋(?)ではなく、もっと別の部分。何かというと、その建物の脇からずっと山奥に向かって伸びている小道でした。道には膝丈くらいの草が生い茂っていましたが、車がよく通るのか、車輪に踏みつけられたと思しき部分だけは砂が露出しており轍となっていました。
「これは……」といった感じで僕の心の琴線が震えました。「これは行くべきだろう。行かないでどうする。行っちゃえ行っちゃえ、ほら、猫もいるぜあそこ」と心の声に誘われるように僕は小道に向かってふらふらと歩いていきました。もちろん猫を追い駆けることも忘れません。逃げられましたけど。
蚊に喰われないようにタオルを首にかけ、右手で端のほうをギュッと握り、僕は小道へと入っていきました。


さくさくと草を踏みしめながら僕は緩い傾斜を上ります。サンダルで来ていたので若干歩きづらいものの、柔らかい草が多いからか比較的足取りは軽いものです。街の喧騒が聞こえなくなり、周囲から聞こえるのは木々のざわめきとセミの鳴き声ぐらい。なんとも不思議な気分です。陳腐な言い回しですが、まるで世界から隔離されてしまったような感じ、ですね。
どこまで続くかわからない道ですが、僕は飽きることなく歩いていきます。ふと後ろを振り向くと、視界は木々で埋まっていました。なかなかに曲がった坂道だったからか、既に入り口は見えなくなっていました。ちなみに、頭上は鬱蒼と茂る葉で埋まっているため、夕方ということもあってうっすらと暗いです。
なんとなーくですが、その時ぐらいから僕は胸のざわつきを感じていました。冗談ではなく割と真剣にです。首にかけたタオルを改めて握り締め、額に流れる嫌な汗をぬぐいます。
ふと気がつくと、なにやら巨大な岩がありました。大きい、と言ってもせいぜい物置より少し大きいかという程度だったのですが、僕はその岩から微妙な空気を感じました。なぜなら、その岩はところどころ人為的に削り取られているように見受けられたからです。彫刻刀の丸刀ってあるじゃないですか、あんな感じに同じ向きに何度も削られた跡があったんですよね。別に注連縄が巻かれていたりということもありませんでしたし、由緒ある岩というわけではなさそうでしたが、横を通り過ぎる時に一抹の気持ち悪さを感じました。
そのわずかに後、やけにセミの鳴き声が耳につきます。ジジジジジ、と何倍も大きな鳴き声のように感じました。まるで、引き返せ引き返せと忠告されているかのような、そんな錯覚さえも覚えました。一体ここはどこなんだろう、後ろに引き返したとしてちゃんと家に帰れるのだろうか。普段考えないであろうことばかりです。
おもむろに僕はGパンのポケットから携帯電話を取り出しました。アンテナを見ると3本。それを見て、僕は内心とても安堵の息をついたものです。人とのつながりを感じられたから、でしょうね。
それからしばらく歩いていくと、なにやら前方に小屋らしきものが見えました。人工物は生活の匂いを漂わせます。僕は少しだけほっとして、前へと進んでいきました。小屋、おそらく用具をしまうようなちっぽけな小屋だったのですが、その周りには畑やビニールハウスの枠組みと思われるものがありました。
その時、不意に足元を見ると大量の松ぼっくりが転がっていました。いずれも傘が開ききっていたためか、その傘の隙間隙間から覗く黒さが妙に生々しく感じました。薄暗いということもあったためか、僕にはその松ぼっくりの群れが何か生き物の卵のように見えてなりませんでした。そして、まさにその瞬間でした。


ガタッ


これは今思い出すと僕の記憶違いなのかもしれません。でもその時、僕はきっと聞きました。近くの小屋が内面から揺さぶられるようなそんな音をです。
僕は努めて冷静に、考えました。まだ坂道は続いています。しかし、時間は6時半過ぎ。このまま先に進むのはどうにもこうにもリスキーすぎる。ならば戻ろう。早く人の居るところに戻ろう。
やがて僕は小屋と畑に背を向けて来た道を歩いて戻り始めました。先の岩のあった場所や、セミの鳴き声の強いポイントでは、なぜか背中に冷たい汗が流れていました。首にぶら下げていたタオルがふわふわ揺れるので、右手でしっかりと握り締めました。理由は思いつきません。
戻る道中、僕はあまりにも人恋しくなり、とうとう友人に電話しました。相手は僕のテンションのおかしさに若干戸惑っていたようですが、僕はそんなこと気にしません。というか、んな余裕はありませんでした。とにかく人の声を聞いて、自分はまだ「居る」ということを確認したかったんです。相手に多大な迷惑をかけてしまったのは心苦しいですけど。


5〜10分歩いたら、元の廃屋のところまで帰ってきました。遠くから聞こえる車の音やサイレンの音、そんなものに安心する日がくるとは思いませんでした。心臓がばくばく鳴っていましたが、恐怖とかそういった感情に由来するのではなく、もっと別の何かが原因だったのだと思います。興奮、驚き……何だったのでしょう。


帰り道にふと思いだしたのは「神隠し」という言葉。僕はそれについて詳しく知っているわけではありませんが、もし神隠しが実際に起こるのだとすれば、今日のような状況で起こるのだろうなぁと勝手に思いました。
これもまたひと夏の体験なのかな、と思います。


(追記)
昨日感じた不思議な感情についてですが、おそらく「夢の中に居るような」感覚が怖かったのではないかと思います。自分以外の生き物、もっといえば自分とは別の感情・気持ち・意思を感じられなかったことがあの何ともいえない恐怖を生んだのでしょう。
夢の中ではなんでもありえます。そこらの茂みから何か得体の知れないものが飛び出してくるのかもしれないし、不意に後ろから目隠しをされるかもしれない。そんな根拠も無い不安を無意識のうちに感じていたのかも。
単純に言ってしまえば「一人で怖かったから」なんでしょうけど、そう言ってしまうとなんだか見も蓋もない感じがしてなりません^^;